夏目漱石の作品『道草』に印象的な場面がある。主人公の夫婦は何かとすれ違ってばかり。ある日、夫は、家計のやりくりに苦労する妻を助けようと、仕事に精を出して新たな金をつくり、妻に渡した。だが「その時細君は別にうれしい顔もしなかった」▼妻は内心思った。「もし夫が優しい言葉に添えて、それを渡してくれたなら、きっとうれしい顔をする事が出来たろうに」と。一方で夫は「もし細君がうれしそうにそれを受取ってくれたら優しい言葉も掛けられたろうにと考えた」▼かつて池田先生はこの場面を紹介しつつ、「互いが、かたくなに相手に期待し要求するだけで、自分を省みるゆとりと思いやりがなかったならば、ことあるたびに心のミゾは深まる」と語った。夫婦に限らず、あらゆる人間関係に通じるだろう▼埼玉の男子部が主催する「創価サンクスフェスタ」が先日、開催された。これは日頃支えてくれる人たちに映像や歌、踊りを通し、感謝を伝えようという企画。多くのメンバーが、普段なかなか口に出せない「ありがとう」を添えて、妻や両親を誘い、一緒に参加。うれしそうな笑顔が会場にあふれていた▼この一年を振り返り、身近な人にこそ感謝の思いを伝えたい。その“ほんの少しの勇気”で人生は豊かになる。(文)