「受動喫煙の防止」を努力義務として定めた健康増進法が施行されたのは15年前。学会の会館でも、いち早く屋内全面禁煙を実施した。この年、世界保健機関(WHO)で「たばこ規制枠組み条約」が採択。多くの締約国で受動喫煙対策が進んでいったが、なぜか主要国で日本だけが後れを取った。
WHOと国際オリンピック委員会(IOC)は2010年、「たばこのない五輪」推進で合意。近年の開催都市は、いずれも罰則付きの法整備がなされてきた。日本でも20年東京五輪へ向け、対策が急務となる中、ようやく罰則を伴う健康増進法の改正案が今国会に提出された。
一方、東京都では4月に子どもを受動喫煙から守る条例が施行。努力義務とはいえ、家庭内など私的空間でも禁煙を求める全国初の条例だ。子どもの保護を最優先した点で意義深い。さらに都は、国の規制より厳しい受動喫煙防止条例の制定を目指す。五輪まで2年、実効性ある対策の早期実現が期待される。
アメリカの科学者ポーリング博士は、池田先生との対談で自身の健康の秘訣を「いまだかつて紙巻きたばこを吸ったことはないからです」と強調した。厚生労働省によると、習慣的に喫煙している人は成人の18・3%。その4人に1人がたばこをやめたいと思っている。喫煙人口が減少傾向にあるのは確かで、日本たばこ産業(JT)も「喫煙と健康に関する意識の高まり」を要因の一つに挙げている。
たばこの煙には200種類もの有害物質、60~70種類の発がん性物質が含まれているという。国立がん研究センターの推計では、受動喫煙による死者は毎年1万5000人。肺がんで死亡するリスクも1・3倍に高まるとされ、虚血性心疾患や脳卒中、乳幼児の突然死との因果関係も認められている。
それゆえ規制を待つまでもなく、子どものいる家庭では自宅や車内で禁煙の“義務化”が広がり、従業員のため、自ら全面禁煙を打ち出す外食チェーンや企業も増えた。こうした自発能動の取り組みを歓迎したい。
喫煙者にとっては、肩身の狭い思いかもしれない。だが周囲への配慮が行き届いてこそ、たばこを吸う自由も尊重される。「望まない受動喫煙」のない社会は、他者への思いやり、慈悲の心が土台となろう。
世界禁煙デーのきょう31日から6月6日まで禁煙週間。たばこの害への認識を深めながら、世界の人々をきれいな空気で迎える準備を整えていきたい。
〈社説〉 世界禁煙デー・禁煙週間 2018年5月31日 「望まない受動喫煙」をなくそう
「望まない受動喫煙」をなくそう