名字の言

〈名字の言〉 2018年9月30日  決して走りに向いた足ではなかった。練習に練習を重ねた。

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 決して走りに向いた足ではなかった。練習に練習を重ねた。求められた色紙には、必ず「努力」と書いた。「暁の超特急」と呼ばれた吉岡隆徳。五輪の陸上男子100メートルで、日本人唯一の決勝進出者である▼彼は指導者として、後進の育成にも力を注いだ。吉岡が教えた選手の一人に、女子80メートルハードルの依田郁子がいる。前回の東京五輪の折、練習の過酷さに、彼女は何度も挫折しかかった。そのたびに吉岡は彼女を励まし、時にはグラウンドで二人して涙を流した。練習に耐え抜いた依田は、五輪で5位入賞を果たした▼吉岡の信念は、“人にできることが、自分にできないはずはない”だった。若い世代にも訴えた。「何ごとも、ぶつかってみることだ。“七転び八起き”の世の諺のように、ぶつかってはまた前進せよ」(『人生の恩師』大和書房)▼目標を達成するためには、必ず越えなければならない壁がある。その高さ、厚さにたじろがず、何度もぶつかっていく中で、新たな栄光の歴史は開く。スポーツに限らず、あらゆる分野に通じる鉄則である▼努力また努力の挑戦を繰り返せる人は、状況に左右されない心の強さを備えることができるだろう。信仰もまた、何ものにも揺るがない、確固たる自己を築くためにある。(燦)