名字の言

〈名字の言〉 2018年5月27日  ベートーベンの交響曲第5番「運命」は今年、第9番とともに

スポンサーリンク

 ベートーベンの交響曲第5番「運命」は今年、第9番とともに、日本初演100周年の佳節。彼は「運命」冒頭の“四つの音”について、秘書のシントラーに説明している。「こうして運命は扉を叩くのだ」(『ベートーヴェンの生涯』角川文庫)▼一度聞くだけで心に残る「運命」の冒頭の音律。そのリズムは、モールス信号で「V」を表すことから、第2次世界大戦中には「victory(勝利)」の意味で使われたという。彼は「運命」以前のいくつかの作品でも、よく似た音を用いている。それほど四つの音にこだわり続けた▼20代後半から耳が聞こえなくなるという絶望の中で、数々の名曲を生み出したベートーベン。自らの運命と格闘を続けた彼は語っている。「どんなことがあっても運命に打ち負かされきりになってはやらない。――おお、生命を千倍生きることはまったくすばらしい!」(片山敏彦訳)▼運命は「命を運ぶ」と書く。わが人生のタクトを振るのは自分自身。過酷な運命にも、ひるまず立ち向かう時、人間としての底力が磨かれる。“断じて負けない”と決めれば、翻弄されていた命が主体的になる▼強いことが幸福である。苦難をバネに飛躍した人生は全て、人々の心を動かす“勝利の曲”となる。(澪)