言葉というものは不思議だ。普段使っているありふれた言葉でも組み合わせ方、発する時と場合によって、すごい力を発揮したりする。なぜそういうことが生じるのか▼詩人の大岡信さんは言う。「つまり、われわれが使っている言葉は氷山の一角だということである。氷山の海面下に沈んでいる部分はなにか。それは、その言葉を発した人の心」にほかならない、と(『詩・ことば・人間』講談社)。海面下の氷山のように見えない心次第で、表に出る言葉の力はいかようにも変わる▼対話に挑んでも上手に話せず悩んでいた友を、多宝会の先輩が励ました。「昔の肉屋さんや魚屋さんを思い浮かべてごらん。おいしいコロッケや魚は古新聞で素っ気なく包んであってもおいしかった。対話も一緒。包装紙で箔をつけるようなもったいぶった話をする必要なんかない。素朴でいいんだよ」▼そばで聞いていて、こちらも得心した。確かに、どんな立派な内容でも、見えや気取りがあれば人の胸に響かない。話がうまくなくていい。大切なのは「言葉の海面下」にある心だ▼相手の幸福を願う慈悲の祈り、社会や未来をよくしたいという熱い思いを精いっぱい言葉に込めて語ろう。そうすれば対話の力は何倍も増す。(実)