登山が趣味の友が言った。「山頂にたどり着いた時の喜びもいいけれど、“下山の苦しさ”を知るところに醍醐味がある」▼上りは元気いっぱいで、次第に頂上へと近づいていく楽しみもある。だが下りは違う。疲れが蓄積した状態で、足腰への負担も大きくなる。だからモチベーションの維持が難しい。「気持ちのスイッチをオンの状態に保てるか。体力以上に心の強さが試される」と▼山登りは、しばしば人の生き方に重ねられる。登頂は“夢や目標の実現”であろう。達成感は格別だが、一瞬のものでもある。すると下山は“一度の成功”“いっときの栄誉”に満足しない精神であり、次なる山を目指す“新たな出発”ともいえる▼初代会長の牧口先生は27歳の時、「山と人生」と題して講演した。山には人心を啓発する働きがあると訴え、青年に登山を勧めた。その先生が仏法に帰依したのは90年前。教育者としての地位を確立し、人生の折り返し点を過ぎた57歳の年である。「言語に絶する歓喜を以て殆ど六十年の生活法を一新するに至った」と語り、人生の新たな峰へ登攀を開始したのだ▼山の向こうには、また山がある。その山を常に見据え、安逸を良しとしない挑戦者でありたい。日に日に新たに喜びを味わえる人生を歩むためにも。(之)