幼少の頃に沖縄戦を体験したある女性が、終戦から3年目の冬、母に連れられ南部戦跡を訪れた。一帯は沖縄戦最後の激戦地である▼壕の中に高く積まれた遺骨は「頭蓋骨の二つの穴が天空をにらみつけているよう」に見えた。そのそばで涙を流し続ける“おばあ”たち。凄惨な地上戦の傷痕は、少女のまぶたに焼き付いて離れなかった▼1960年7月、米軍統治下の沖縄を初訪問した池田先生は南部戦跡へ。62年にも同戦跡へ足を運び、64年12月、沖縄で小説『人間革命』を書き起こした。「戦争ほど、残酷なものはない。戦争ほど、悲惨なものはない」と▼当時、ベトナム戦争が世界に暗い影を落とし、沖縄の基地からも爆撃機が飛び立った。小説の冒頭の一節はこう続く。「だが、その戦争はまだ、つづいていた。愚かな指導者たちに、率いられた国民もまた、まことに哀れである」。戦争で苦しむのは常に弱い人々だ。強大な武力の応酬を前に、民衆になすすべなどない▼今なお戦火が絶えない現実にあって、他者の不幸に思いを巡らせ、生命の尊厳を守る眼が閉ざされていけば、平和は見いだせない。あすは沖縄の「慰霊の日」。「命こそ宝」の思潮を世界へ――仏法者の使命を深く胸に刻みたい。(踊)