かつて利き腕を骨折した友。「あれは難儀だった」と苦笑いしながら、当時の生活の苦労を語ってくれた▼最も困ったことの一つが「手洗い」。指先から脇の下までギプスと包帯で固定され、両手でゴシゴシと水洗いができない。「当たり前が当たり前でなくなって、初めて気付くことがあった」。そう言いつつ、自分の手のひらを、いとおしむようにさすった▼南アフリカに古くから伝わる言葉に「片方の手が、もう片方の手を洗ってくれる」とある。汚れた右手、左手も、重ねてこすれば、互いが互いを洗って、両手が一緒にきれいになる。同時に、そうした身近な存在だからといって感謝を忘れてはならない、という戒めにも思える▼あらためて、身近な人々を思い浮かべてみる。家族、友人、近隣、職場の人々……私たちは、人との触れ合いを通して自身を磨いている。“長所しかない”という、完全無欠な人など一人もいない。互いに欠点を抱えながら、励まし合い、時にぶつかり合い、切磋琢磨する中で、人は成長していく▼池田先生は「人間は、人間を離れて人間になれない。人間の中でこそ、より大きな自分となり、より大きな喜びを得るのだ」と。あらためて感謝したい。あの人、この人に。共に歩む全ての同志に。(之)