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エスキベル博士と池田先生による共同声明 2018年6月8日 母なる地球は人間が「共に暮らす家」

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母なる地球は人間が「共に暮らす家」
エスキベル博士夫妻と池田先生が語らう(1995年12月、東京で)。博士と先生は、「レジリエンス(困難を乗り越える力)」を体現する存在として世界の青年を触発する
エスキベル博士夫妻と池田先生が語らう(1995年12月、東京で)。博士と先生は、「レジリエンス(困難を乗り越える力)」を体現する存在として世界の青年を触発する

 世界の青年たちよ! 人類の重要な挑戦のために連帯し、自らの人生と、新しき世紀の歴史を開く建設者たれ!
 人類がいかなる重大な試練に直面しようと、それに立ち向かう「青年の連帯」がある限り、希望は失われることはない。
 青年への限りない期待を込めて、この共同声明を発表したい。
 ◇ 
 目まぐるしい社会変化の中で、21世紀の世界は、いくつもの深刻な課題を抱えるに至った。
 こうした現代の世界に光明を見いだすためには、歴史と真摯に向き合い、その記憶をたぐり寄せることが欠かせない。その記憶は、我々の目の前に新しい選択肢を浮かび上がらせるだけでなく、「もう一つの世界は可能である」と示す民衆の力と不屈の精神という“希望の光”が、人間の歴史に輝いていることを教えてくれる。
 20世紀の光と影は、人類の歩みに深い影響を与える一方で、先進国と開発途上国の間に不均衡と不公平をもたらした。また、各国の国内においても、貧富の格差は拡大の一途をたどっている。飢餓を見過ごすことは罪であり、飢えと貧困との戦いに猶予の時はない。
 問題解決に向けて、国連では「我々の世界を変革する」と題した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(注)が打ち立てられた。我々は、国や民族、宗教や文化といった差異を超えて、地球上から悲惨の二字をなくすためのアジェンダに協力して取り組まねばならない。

新しき時代創造への挑戦

 新しき時代創造への挑戦の波は、すでに生まれ始めている。
 その一つが、気候変動対策のための「パリ協定」だ。異常気象の頻発をはじめ、海面上昇などへの懸念が高まる中、2016年11月に発効し、今や世界のほとんどの国が批准するに至っている。
 もう一つは、2017年7月に採択された「核兵器禁止条約」である。核兵器を、一切の例外なく禁止する国際条約がついに誕生したのだ。
 昨年11月には、教皇フランシスコの呼び掛けで、「核兵器のない世界へ――統合的軍縮への展望」をテーマにしたシンポジウムが、バチカンで開催された。
 核兵器のない世界を追求する上で、核の脅威とともに、他国の民衆の生命と尊厳を犠牲にして自国の安全保障を追求するような権力思考と野心こそ、廃絶されなければならない。そうした「武装した理論」と決別する時が来ているのだ。
 かつて私たち二人が対談集でさまざまな地球的課題を論じた際、その通奏低音にあったのも、青年の力に対する限りない信頼に他ならなかった。
 昨年の核兵器禁止条約の採択に際し、市民社会の力強い後押しの中核を担ったのは、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)をはじめとする世界の青年たちの連帯であった。
 青年が厳しい現実に屈せず、前に進もうとする勇気を持てるか否か――。その現在の青年の姿が、未来を決定づける。
 マーティン・ルーサー・キング博士は、「われわれは常に新しい日の夜明けに立っているのである」(クレイボーン・カーソン編『マーティン・ルーサー・キング自伝』梶原寿訳、日本基督教団出版局)との言葉を残した。
 私たち二人もまた、地球という我々の「共通の家」には、人類と全ての生きとし生けるもののために、新たな夜明けを迎える希望と志が常にあるとの信念を抱き続けてきた。
 難民問題は焦眉の課題である。幾百万、幾千万もの人々が、戦争や武力衝突の暴力、飢えの暴力、社会的暴力、構造的な暴力によって、生命と尊厳を脅かされている。
 困窮している人々に連帯し、その窮状を打開するために、我々は両手だけでなく、考え方と心を大きく広げなければならない。

青年への呼び掛け

 ゆえに私たち二人は、世界の青年たちに呼び掛けたい。
 連帯の力で乗り越えられない壁など決してない。さまざまな文化的アイデンティティーや精神的アイデンティティー、そして属性の違いを超えて、青年による行動の連帯を幾重にも広げていこうではないか、と。
 植えたものは、必ず収穫される。自分たちの一つ一つの行動が未来に必ず実を結ぶことを信じ、「民衆と共に人生を歩む」という責任を勇んで担おうではないか、と。
 核兵器の脅威をはじめ、紛争による難民の急増、気候変動に伴う異常気象、そして、マネーゲームが過熱する中での貧富の格差の拡大――。これらの問題の根底には、軍事の暴走、政治の暴走、経済の暴走があり、我々が「共に暮らす家」である地球に大きな暗雲が垂れ込める元凶となっている。
 力や富を得れば得るほど、「全てを今すぐに手に入れたい」との思いを抑えきれない風潮が強まっている。
 東洋の思想には、社会の混迷を招く三つの要素に関する洞察がある。一つ目は、利己的な欲望に突き動かされる「貪(むさぼり)」で、二つ目は、他の人々を憎んで争う「瞋(いかり)」である。
 そして三つ目は、自分たちの生きるべき方向性や社会の羅針盤を見失ってしまう「癡(おろか)」だ。
 ガンジーは、人間の行動基準として、自らの言動が「最も貧しく、最も無力な人」にどんな影響を及ぼすのか、その顔を思い浮かべながら判断することを強く促した。
 ガンジーの信条は、社会的に弱い立場に置かれた人々の存在を常に忘れず、誰一人として犠牲にしない社会を築くことにあったのである。
 そこには、国連のSDGs(持続可能な開発目標)が掲げる“誰も置き去りにしない”との理念と響き合う「人間性」が力強く脈打っている。

国際社会への呼び掛け

 さらに私たち二人は、この共同声明を通し、現代文明における暴走を食い止め、人間と母なる地球とのバランスを回復し、“誰も置き去りにしない”社会を築くための礎として、「世界市民教育を通じた青年のエンパワーメント」の推進を、国際社会に強く提唱したい。
 青年たちの限りない可能性と力を引き出すエンパワーメントを、地球上のあらゆる場所で推進していくために、私たちは世界市民を育む取り組みを2030年に向けて新たにスタートさせなければならない。
 その取り組みを通し、青年たちが、
 ①悲惨な出来事を繰り返さないため、「歴史の記憶」を胸に共通の意識を養う
 ②地球は本来、人間が「共に暮らす家」であり、差異による排除を許してはならないことを学ぶ
 ③政治や経済を“人道的な方向”へと向け、持続可能な未来を切り開くための英知を磨く
 ――ことを期待したい。
 そしてこの三つの柱を軸に、青年たちが連帯し、母なる地球を守るための行動の輪を広げる流れをつくり出すべきではないだろうか。

松明の継承

 私たち二人は、“戦争と暴力の世紀”であった20世紀の嵐をくぐり抜ける中で、その転換を求めて、民族や宗教の違いを超えた友情の連帯を一歩ずつ広げる努力を重ねてきた。
 その友情と多様性における調和の連帯の松明を託す思いで、私たち二人は、21世紀に生きる青年たちに強く呼び掛けたい。
 青年たちが人々と共に団結し、生命の尊厳を守り、不正義と闘い、肉体と精神、そして自由のための糧を分かち合うこと――。私たち、アドルフォ・ペレス=エスキベルと池田大作は、現代および未来の社会のため、新しい希望の夜明けを開くため、それが不可欠だと考える。
 青年たちがその行動を広げていくならば、揺るがぬ人類の普遍の精神的遺産と、「公正」や「連帯」に基づく新たな世界を構築できることを確信してやまない。

語句解説

 注 持続可能な開発のための2030アジェンダ
 2015年9月の「国連持続可能な開発サミット」で採択された成果文書。宣言のほかに、17分野169項目からなる「持続可能な開発目標(SDGs)」が掲げられている。2030年までに、貧困や飢餓、エネルギーや気候変動など、多岐にわたる課題の包括的な解決を目指している。