名字の言

〈名字の言〉 2018年4月5日

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「バッハやモーツァルトが弾いた楽器の音を実際に聞けるならどんなに素敵だろう」「そんな夢が東京の『民音音楽博物館』で叶うことをご存じだろうか」――オペラ歌手の佐藤しのぶ氏がエッセーにつづっていた▼同館ではイタリアで400年前に作られた「ピサ・チェンバロ」をはじめ、古典ピアノのミニ演奏会が1日5回、開かれる。佐藤氏が言う通り、当時の楽器が実演されることは世界的にもまれである。この取り組みは民音創立者・池田先生の「来た人には必ず音色を聴かせてあげよう」との提案がきっかけだった▼30年前から民音で古典ピアノの調整を担う専任調律師は語る。「音楽を民衆の手に――民音の理念を形にする仕事に“職人魂”が燃えました」。とはいえ当初は難問ばかり。鍵盤が動かず音の出ないものや、微妙な温度・湿度の変化で音が狂うものなど、楽器として使える状態ではなかった▼専門書を手に手探りの中、ピアノと向き合う日々。一台ごとに専用の工具を手作りした。また季節の変化や来館者数に対応して、温度・湿度を管理する技術を編み出した▼音楽には形がない。しかし、音楽でしか表現できないものがある。楽聖たちが愛した古典ピアノの響きを聴きながら、文化を守り育む民音の使命をかみ締めた。(湧)