小説「新・人間革命」

〈小説「新・人間革命」〉 暁鐘 三十七 2017年10月14日

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 法悟空 内田健一郎 画 (6198)

 山本伸一は、さらに、結婚観について語っていった。
「近年は、世界的な傾向として、すぐに離婚してしまうケースが増えつつあると聞いています。しかし、どちらかが、しっかり信心に励み、発心して、解決の方向へ歩みゆくならば、聡明に打開していける場合が多いと、私は確信しています。ともかく、確固たる信心に立つことが、最も肝要です。
よき人生を生き抜き、幸福になり、社会に希望の光を送るための信心です。ゆえに、よき夫婦となり、よき家庭を築き、皆の信頼、尊敬を集め、仏法の証明者になることです」
この夜、伸一は、スカラ座のバディーニ総裁の招きを受け、峯子と共に、クラウディオ・アッバード指揮のロンドン交響楽団による、ムソルグスキー作曲「展覧会の絵」などの演奏を鑑賞した。
すばらしい演奏であった。彼は、この感動を、日本の市井の人びとに、ぜひ味わってもらいたいと思った。彼が民音を創立した目的の一つは、民衆に世界最高の音楽・芸術と接してもらうことにあった。芸術も文化も、一部の特別な人のものではない。

翌五日の正午過ぎ、伸一たち一行は、メンバーに見送られ、ミラノから空路、フランスのマルセイユに向かった。
伸一のミラノ滞在は、三泊四日にすぎなかった。しかし、彼と身近に接したミラノの青年たちが、心に深く焼き付けたことがあった。それは、彼が、ホテルのドアボーイや料理人、運転手、会社の経営者、学者など、すべての人に、平等にねぎらいや感謝の言葉をかけ、丁重に御礼を言う姿であった。
仏法では、万人が等しく「仏」の生命を具え、平等であると説く。まさに伸一の行動が、それを体現していると感じたという。
思想、哲学、そして宗教も、その真価は、人の行動、生き方にこそ表れる。
友の幸福のため、社会のために、喜々として懸命に活動する姿のなかに、仏法はある。