JR山手線の30番目の新駅の名称が「高輪ゲートウェイ」に決まった。一方で6万件以上の一般公募のうち、第3位と健闘したのが「芝浜」。新駅の周辺地域であり、古典落語の演目でもある▼腕はいいが酒好きな魚屋の金さん。ある日、芝浜で大金の入った財布を拾う。金さんはさっそく仕事を放り出し、友人と祝い酒。ところがその夜、酔いが醒めると財布がない。女房が言った。「夢にきまってるじゃないか」。大金を夢に見るほどの貧しさを省みた金さんは以来、仕事に精を出し、表通りに店を構えるまでになった▼3年後の大みそか。“実は”と女房が取り出したのは、あの財布だった。亭主を案じてついたうそに金さんは感謝する。「おっかあ、みんなおめえのおかげじゃねえか」(興津要編『古典落語』講談社学術文庫)▼「うそも方便」という言葉があるが、本来は“うそをついてもいい”という意味ではない。「方便」は仏教用語の一つで、法華経には「言辞方便力を以て 一切をして歓喜せしめたまう」(127ページ)とある。仏が衆生を救うために、相手に応じて、巧みに手段や教えを用いたとの意だ▼どう友に声を掛けるか、どんな話をするか――対話には“方便力”も大切だ。目の前の一人を励ます、豊かな知恵を磨きたい。(誼)