小説「新・人間革命」

〈小説「新・人間革命」〉 誓願 二十三 2018年4月21日

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 法悟空 内田健一郎 画 (6353)

 山本伸一は、民衆に深く根を張り、仏法の平和思想、人間主義の思想を、世界に伝え弘めていく広宣流布の運動を、着実に展開していくことこそが、恒久平和の揺るがざる基盤を築く要諦であると考えていた。民衆の力、草の根の力こそが、確かな反戦・反核の世論をつくり、世界を結ぶ推進力となるからだ。
その一方で彼は、各国の指導者との対話を重ね、国連を軸に平和の潮流を創造していくことを深く決意していた。
また、未来を担う学生たちが、友情と平和の連帯を幾重にも結んでいけるよう、世界の大学等との教育・文化交流にも力を注ぎ続けていこうと決めていた。
政治の世界は、ともすれば時代の激流に翻弄されがちであるが、大学などの学問の府には普遍性、永続性がある。その国の最高学府に学んだ人たちは、社会建設の次代の担い手となる。さらに、若い世代の交流は、グローバル化する世界を結ぶ新しい力となろう。
伸一の行動に力がこもった。同志の激励のために、日本国内を以前にも増して、くまなく回り、さらに、世界を駆け巡った。
一九八三年(昭和五十八年)の五、六月には、アメリカ、ヨーロッパを訪問した。
翌八四年(同五十九年)二、三月には、アメリカ、南米を訪れた。その折、十八年ぶりにブラジルを訪問し、ジョアン・フィゲイレド大統領と会見した。同大統領からは、八二年(同五十七年)五月、訪問を要請する親書が届いていた。会見は二月二十一日、首都ブラジリアの大統領府執務室で行われた。
思えば、十八年前の訪問中、彼の周囲には、常に政治警察の監視の目が光っていた。学会への誤解と偏見から、敵意をいだく日系人らが喧伝した「宗教を擬装した政治団体」などという話を、信じてしまった政府関係者もいたのである。
以来、社会に学会理解と信頼を広げるための、ブラジル同志の奮闘が始まった。誤解を招くのは一瞬だが、それを解き、信頼を築き上げるには、何年、何十年の歳月を要する。