島崎藤村の小説『破戒』の時代設定は明治後期。被差別部落出身の青年教師・瀬川丑松が、出自を「隠せ」という父の戒めを破るまでの葛藤を描いた▼封建的な身分制は廃止されたものの、人々の差別意識は残ったまま。出自を他人に知られるだけで、社会的に排除される恐れもあった。近代的な人権思想を学んだ丑松は悩み苦しむ。「同じ人間だということを知らなかったなら、甘んじて世の軽蔑を受けてもいられたろうものを」と▼『破戒』が読み継がれるのは、差別について読み手に鋭く問い掛けてくるからだろう。差別とは、ひとえに心の問題であるゆえに、社会や時代を超えた普遍的な問題なのだ▼仏法は、生命の十界互具を説く。仏界という最高境涯を得ても、仏以前の九界の生命から離れるわけではない。人を見下す畜生界の生命や、他人に勝ろうとする修羅界の生命と無縁の人などいない。ゆえに、常に自身の心と向き合い、差別を許さない不断の挑戦が必要となる▼「全ての人が尊い」と言うことは、たやすい。だが、実際に行動に表すことは難しい。どこまでも他者と関わり、励ます実践の中で自身の生命を磨きゆく私たちの学会活動は、人権社会の礎を築きゆく闘争でもあるのだ。誇りと使命感をもって進みたい。(之)