小説「新・人間革命」

〈小説「新・人間革命」〉 暁鐘 三十三 2017年10月9日

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 法悟空 内田健一郎 画 (6194)

 ダンテの『神曲』は、神の審判という尺度をもって、嫉妬、欺瞞、傲慢、暴力、噓、裏切りなどがもたらす、死後の世界の無残な結果を描き出した。それは、いわば、人間を不幸にする諸悪との闘争の書といえよう。
人間は、いくら地位や、名声や、財産を得ても、「死」という問題が解決できなければ、真実の生き方の確立も、幸福もない。現代の歪みは、人間にとって一番大事な「死」の問題を避け、目先の欲望ばかりを追い求めてきた帰結といえよう。
山本伸一は、人びとが仏法という永遠の生命の大法に目覚めてこそ、新しき生命のルネサンスがあるとの確信を強くいだいていた。
彼は、さらに青年たちと、フィレンツェ郊外にあるフィエーゾレの丘に足を運び、語らいのひと時をもった。
「仏法は、対話を重視しているんです。それは、宗教の権威、権力によって人を服従させることとは、対極にあります。釈尊も対話によって法を説き、日蓮大聖人も対話を最重要視されています。学会の座談会も、その精神を受け継いでいるんです。さあ、聞きたいことがあれば、なんでも質問してください」
青年たちは、瞳を輝かせて伸一に尋ねた。話は、ダンテ論、依正不二論、因果俱時論などに及んだ。質問が一段落すると、伸一は彼方に広がる市街地を眺めながら語った。
「やがて、ここから見える、たくさんの家々の窓に、妙法の灯がともる日が必ず来ます。広宣流布の時は来ている。今こそ、皆が勇気をもって一人立つことです。
戸田先生が第二代会長に就任された時、同志は三千人ほどにすぎなかった。しかし、師弟共戦の使命に目覚めた青年たちが立ち上がり、七年を待たずに、学会は先生の生涯の願業であった会員七十五万世帯を達成します。
それは、果敢な対話の勝利でした。私たちには、仏法への大確信があった。皆が教学に励み、理路整然と明快に法理を語っていった。そして、ほとばしる情熱があった。対話は心を結び、時代を創る力となります」

 小説『新・人間革命』語句の解説
◎依正不二など/依正不二とは、生命活動を営む主体である正報と、その身がよりどころとする環境・国土である依報が不二であること。
因果俱時とは、一念の生命に、因と果が同時に具足し、先後の別がないこと。また、仏因(九界)と仏果(仏界)とが、ともに衆生の一念にそなわることをいう。