小説「新・人間革命」

〈小説「新・人間革命」〉 大山 六十五 2017年3月20日

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 法悟空 内田健一郎 画 (6025)

 山本伸一のあいさつに与えられた時間は、十分にも満たなかった。
 これまで本部総会では、伸一から広宣流布の遠大な未来構想や希望の指針が示され、また、社会、世界の直面するテーマに対して解決の方途を示す提言が発表されることも少なくなかった。さらに、参加者と一対一で対話するような、ユーモアを交えた心和む話に、皆は時に安堵し、時に大笑いしながら、新しい前進への決意を固め合ってきた。しかし、そんな心の触れ合いもない、あまりにも形式的な総会になっていた。
 伸一のあいさつに続いて、法主・日達の特別講演があり、新理事長の森川一正、新会長の十条潔のあいさつと進んだ。
 十条は、これまで三代の会長が築いてきた盤石な基盤のうえに、安定と継続、そして着実な発展を図っていきたいと抱負を語った。
 総会は型通りに終わった。
 この時、狂ったように学会を誹謗し、信徒支配を狙っていた宗門の悪僧や、背後で暗躍した邪智のペテン師らは、“計画通りだ。これでよし!”と、ほくそ笑んでいたにちがいない。伸一には、妬みと欲望の虜となった、その滅びゆく実像がよく見えていた。
 彼が体育館を出て渡り廊下を歩いていると、幼子を背負った婦人など、広場にいた数人の人たちが伸一の姿に気づき、「先生! 先生!」と叫び、広場の手すりまで駆け寄って来た。本部総会の参加者ではない。一目でも会いたいと、外でずっと待っていたのであろう。その目には涙が光っていた。
 伸一は大きく手を振った。
 「ありがとう! お元気で!」
 一瞬の出会いであった。しかし、そこには何があっても変わらぬ、深い魂の結合があった。創価学会の真実の絆があった。
 “これから、こういう尊い方々を、本当に善良な仏子を、誰が守っていくのか! 誰が幸福にしていくのか! 私は、必ず守り抜いてみせる!”
 伸一は、会員厳護の決意を新たにした。