法悟空 内田健一郎 画 (6366)
マンデラ副議長と山本伸一の語らいは弾み、予定された五十分の会見時間は、瞬く間に過ぎた。会談を終え、共に歩みを運びながら、伸一は言った。
「偉大な指導者には迫害はつきものです。これは歴史の常です。迫害を乗り切り、戦い勝ってこそ偉大なんです。これからも陰険な迫害は続くでしょう。しかし、真実の正義は、百年後、二百年後には必ず証明されるものです。お体を大切に!」
それは、伸一自身が、自らに言い聞かせる言葉でもあった。人間として、人間のために戦う二人の魂は、熱く響き合ったのである。
伸一の平和をめざしての人間外交は、その後も、ますます精力的に続けられた。それは、魂と魂の真剣勝負の触発であった。
彼は、マンデラ副議長と会談した翌月の一九九〇年(平成二年)十一月には、ナイジェリアの元国家元首のヤクブ・ゴウォン博士、ザンビアのケネス・カウンダ大統領らと相次ぎ会見した。
さらに、同月には、ブルガリアのジェリュ・ジェレフ大統領、トルコのトルグト・オザル大統領らと、また翌年には、フィリピンのコラソン・アキノ大統領、統一ドイツのリヒャルト・フォン・ワイツゼッカー初代大統領、イギリスのジョン・メージャー首相らと対話を重ねていった。
人と人とが語り合い、平和への思いを紡ぎ出し、心を結び合っていく――まさに、対話は、内発的で漸進主義的な、問題解決への道である。また、対話は、最後まで貫徹されてこそ対話といえる。ゆえに、それには、忍耐力と強靱な精神の力が求められる。
一方、「問答無用」といった急進主義的な姿勢は、弱さゆえの居直りであり、人間性の敗北宣言にほかならない。その帰結は、暴力など、外圧的な力への依存へと傾斜していくことになる。
対話による人間同士の魂の結合こそ、平和のネットワーク創造の力となる。