山本伸一は、この二十年間でイタリアの創価学会が目覚ましい発展を遂げたことが、何よりも嬉しかった。
会場に、役員として走り回る小柄な日本人壮年がいた。十四年前のイタリア訪問の折、ローマのホテルのエレベーターで励ました小島保夫である。当時、美術学校に通う学生であった。本部長の金光弘信の報告では、現在、ローマにあって、支部の中核の一人として皆を守り、活躍しているという。
自分に光は当たらなくとも、新しい青年たちを励まし、黙々と皆のために尽くす存在は貴重である。組織が強くなり、発展していくには、リーダーのもとに、そうした陰の力となる人が、どれだけいるかが決め手となる。広宣流布とは、結局は連携プレーであり、団結のいかんにかかっている。
友好文化総会で伸一は、舞台に上がり、マイクを手にした。
「遠くアルプス山中に湧いた一滴一滴の水が、イタリアの地を流れ、ポー川の大河となって、やがて、アドリア海へと至る。生命のルネサンスをめざす私どもの運動は、今は山中を下り始めたばかりかもしれないが、やがて三十年後、五十年後には、滔々たる大河の流れとなり、人類の新しき平和の潮流になるであろうことを宣言しておきます。
そのためには、人を頼むのではなく、自分こそが広布の責任者であると決めて、一人立つことです。そして、日々、弛みなく、もう一歩、もう一歩と、全力で前進していく――この小さな行動、小さな勝利の積み重ねこそが、歴史的な大勝利をもたらします」
伸一は、最後に、「いつも陽気に、そして祈りは真剣に。生活を大切に、体を大切に」と指針を示し、「世界の青年と手に手を取り、世界平和のために雄々しき前進をお願いしたい」と述べて話を結んだ。
さらに、この夜、彼は、代表メンバーと懇談した。イタリアから宗教間対話の波を起こし、人間共和の新しい歴史を創ってほしいというのが、伸一の念願であった。