一人の中学生が級友から詩を見せられた。「カチリ/石英の音/秋」。この詩によって文学と出あった“中学生”は後年、作家の道へ進んだ。文豪・井上靖さんのことである▼井上さんは生涯、この詩が頭から離れず、秋と聞くと心の中で、石英(鉱物の名。透明なものは水晶と呼ぶ)がカチリとぶつかり合う音がしたという。わずか3行の詩が井上さんの人生を変え、支えた――詩の力は偉大だ▼ある壮年部員は、少年部時代に暗唱した詩の一節を、今も胸に刻む。「君たちよ/大木となれ/力と福運の葉を茂らせよ/勝利の花を爛漫と咲かせ/実を結べ」。池田先生の詩「大いなる希望」である▼受験の失敗、進路の悩み、大病、経済苦……壁にぶつかるたびに壮年は詩を声に出し、自身を奮い立たせた。きっと、壮年は詩と出あった少年時代の“あの日”、心に木を植えたのだろう。風雨に打たれることなく成長した大樹はない。壮年は試練を成長の滋養と捉えた。“先生が私の勝利を待っている。負けてたまるか!”と歯を食いしばり、乗り越えてきた▼詩は「志」でもあるのだろう。書き手の志の高さが言葉となった詩は読む人の純粋な心に共鳴し、生きる力を届ける。私たちも、そんな珠玉の詩を胸に響かせ、人生を勝ち開きたい。(代)