東京富士美術館が開館し、今年で35周年。これを記念し、同館の所蔵品を紹介する「日本の美 百花繚乱」展が、札幌で開幕した▼葛飾北斎の「冨嶽三十六景」や歌川広重の「東海道五拾三次」など、日本が世界に誇る浮世絵をはじめ、島津斉彬の鎧、天璋院篤姫の婚礼調度品など、NHK大河ドラマ「西郷どん」で脚光を浴びる人物ゆかりの品も出品。開幕式で来賓が「本当に全部、東京富士美術館の所蔵なんですか」と驚嘆していた▼「風神雷神図襖」も注目作の一つ。俵屋宗達が描いたものを、約100年後に尾形光琳が模写し、その約100年後に弟子の酒井抱一が描き、さらに時を経て、その弟子・鈴木其一が手掛けた作品である。偉大な先人を手本にし、新しい画風も開拓しながら、一つのテーマが脈々と描き継がれていった、興味深い例だ▼「私かにこれを人よりうけて淑とするなり」(孟子)――教えを直接受けたわけではないが、その人を慕い、自ら師と捉え、模範にして学ぶ。「私淑」という言葉の語源である▼物理的な距離は遠くても、たとえ会ったことがなくても、師と弟子の関係において、それは本質的な問題ではない。名作が時を超えるように、自分が決めた瞬間、偉大な心を継ぎゆく師弟の歴史は始まる。(鉄)