「読書、なかんずく小説を読むよろこびは、もう一つの人生を経験することができる、という点にある」――作家・山本周五郎の言葉だ▼氏が、ある短編小説を読んだ時のこと。ナチス占領下のスカンジナビア半島の雪山を、主人公が必死で進む描写があった。その真に迫った生々しさを、「針葉樹林のにおいや、雪のさわやかなにおいまでを感ずることができた」と述懐している▼読書によって「現実の生活では得られない情緒や感動」を得られると、氏は力説する。「こちらに積極的な『読み取ろう』とする気持がありさえすれば、たいていの小説はそれを与えてくれる」と(『また明日会いましょう』河出書房新社)▼読書の目的は“新しい情報を得るため”“趣味として楽しむため”など、さまざまだろう。ただ同じ本でも、読む側の心一つで手応えは変わる。第2代会長の戸田先生は常々、「書を読め、書に読まれるな」と教えた。自分を磨き高める本を選び、真摯に向き合ってこそ、精神の実りは豊かになる▼良書を読んで、自身の考えを記せば、思索はさらに深まっていくだろう。未来部の「読書感想文コンクール」「きぼう作文コンクール」もまた、英知を磨く絶好の機会。子どもたちと共に名著・名作に触れる夏に!(誼)