“世界一強い女の子”をご存じだろうか。スウェーデンの児童文学作品『長くつ下のピッピ』の主人公である▼9歳のピッピは力持ち。馬を軽々と持ち上げ、大力の大男でさえかなわない。大人にも言うべきことは言う。そんな彼女が放つメッセージは、次の言葉に集約される。「大人だというだけで、その人の言うとおりに、絶対しなくていいの! 大人の指図に従うなら、そこにはきちんとした理由がなくちゃならないわ!」▼作者の故アストリッド・リンドグレーンは“子どもの代弁者”だった。大人の理不尽な規範や要求に対して「本当に正しいの?」と問い掛ける作品が多い。それが子どもの読者に「そうだ、その通り!」との爽快感をもたらすのだ▼大人は、一方的に子どもを教訓できるほど完成された人間なのか――むしろ、経験が大人を堕落させていることも少なくない。「子供を教えるということはむしろ僣越である。われわれこそ子供より学ぶべき多くのものを持っている」とはロシアの文豪トルストイの叫びだ(『国民教育論』玉川大学出版部)▼「育児」は「育自」、「教育」は「共育」という。大人自身も子どもから学び、共に向上していかなければならない。その第一歩は、子どもたちの声に全力で耳を傾けることである。(之)