名字の言

〈名字の言〉 2017年1月24日

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戦時中の広島を舞台にした映画「この世界の片隅に」が、第90回「キネマ旬報ベスト・テン」で日本映画1位に輝いた(10日)。アニメ作品では28年ぶりの快挙。動員数は100万人を超え、上映拡大が続く▼「何でもつこうて、暮らし続けにゃならんのですけぇ」――主人公・すずの日常を描いた作品。監督の片渕須直氏は、当時の天気、店の品ぞろえから、空襲警報の発令時刻に至るまで徹底して調査した▼映画では旧・中島本町の庶民の暮らしぶりも丁寧に描かれている。この繁華街では原爆で458人が犠牲になり、現在は広島平和記念公園の一部になっていることはあまり知られていない▼「72年前、ここに私の家があってのう」。その公園で壮年部員が語ってくれた。当時9歳。原爆投下から8日後、疎開先から家に戻ると一面の焼け野原と化していた。母が愛用していた鉄瓶を見つけ、父の遺骨を入れた。「命ある限り、語り伝えたいんじゃ」▼公園内の原爆慰霊碑にある死没者名簿が昨年、30万人を超えた。たった1発の爆弾が生んだ、無数の悲劇。地球上には今なお1万5000発以上の核兵器がある。廃絶へ何ができるか。一人の声を聞き、一人の心を継ぐ――いちずに同苦を貫くなかに、その一歩があることを忘れまい。(子)