名字の言

〈名字の言〉 2018年9月11日  「擱筆」という言葉を知ったのは、佐藤紅緑の小説『ああ玉杯に花うけて』を読んだ時だった。

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「擱筆」という言葉を知ったのは、佐藤紅緑の小説『ああ玉杯に花うけて』を読んだ時だった。結びに「読者諸君、回数にかぎりあり、この物語はこれにて擱筆します」とある▼辞書で調べると「筆を擱く」の熟語だという。「書き終える」との意味だ。似たものに「筆を折る」があるが、こちらは文筆活動そのものをやめる、との意。「擱筆」には、続きの物語があるとの響きを感じる▼小説『人間革命』第12巻に、山本伸一青年が一高寮歌「嗚呼玉杯に花うけて」を歌おうと、青年たちに提案する場面がある。後継の「3・16」の儀式を終えて間もない頃。病床にあった戸田先生に「『広宣流布は私たちがやります』との、力強い歌声をお聞かせできれば、先生にご安心していただける」と▼『人間革命』の擱筆後、池田先生は、すぐさま『新・人間革命』の執筆を開始した。恩師との誓いを貫き、筆を走らせ続けて25年。読者の中には、毎日の連載の記事を切り抜いたり、ノートに書き写したりしてきた友も多いだろう。山本伸一の言葉をわが胸に響かせる時、自分が今、何をすべきかが見えてくる▼「擱筆」の対義語は「起筆」。師の擱筆の日は、弟子が「起つ」日である。自身の姿で、新たな「人間革命の物語」をつづる旅立ちの時が来た。(之)