作家・藤沢周平さんの小説『又蔵の火』は、主人公の又蔵が厄介者の兄をかばう内容になっている。発刊当時、藤沢さんの実兄は事情があって行方知れずだった。藤沢さんは、この本を世に出すことで兄を捜そうとした▼作品を通し、“恨んでなどいない。帰ってきてほしい”。そう伝えたかったのだろうと、藤沢さんの娘が本に書いている(遠藤展子『藤沢周平 遺された手帳』文藝春秋)。その後、別の作品で直木賞を受賞し、時の人となったことで、兄弟は連絡が取れたという▼福島の婦人部員を取材した折、意外なことを言われた。「私、聖教新聞に出たかったんです」。彼女は幼い時、訳あって、父と別離。その後、入会した彼女が、やがて婦人部となり、初めて本紙の購読を勧めた相手が父だった▼離れても父は父。「お前からのメッセージと思って読むよ」と快諾した。彼女は信心に励み、“あなたの娘は幸せに頑張っています”と、確かな形をもって伝えたいと願っていた。長年の祈りがかなった喜びが涙と光った▼池田先生は「『心の世界』には距離がありません。まして、唱題は距離を消します」と語る。いちずな思いは距離を超える。そして、強盛な祈りは、人の心を引き寄せ結び合う。一念には無限の力がある。(代)