詩人の吉野弘さんは“漢字遊び”の名人だった。例えば「過」という詩がある。「日々を過ごす/日々を過つ/二つは/一つことか/生きることは/そのまま過ちであるかもしれない日々」(『吉野弘詩集』ハルキ文庫)▼確かに、人が生きる限り、失敗や間違いは避けられない。それをどう捉え、どう次の一歩に生かしていくか――ここに、人生を豊かにする鍵があろう▼フォークソングデュオとして活動する夫妻に話を聞いた。かつて夫は、職場の心労で倒れた。時を同じくして、妻は心の病に。不安に押しつぶされぬよう題目をあげる中、池田先生の指導に出あった。「一番不幸だと思った日こそ、あとから振り返ると、一番かけがえのない日々だったとわかるものだ」▼師の言葉を命で受け止めた時、夫妻は「今」の心をそのまま歌に表現しようと思った。その後、夫は職場に復帰し、妻の症状も薄紙を剝ぐように回復。そして苦しみのどん底で生まれた歌は今、デュオの看板曲に。イベントや慰問活動を通し、人々に生きる勇気と喜びを届ける▼過去は変えられない。だが、信心を根本に挑む時、その意味を、未来を開く糧に転ずることはできる。今、この瞬間を精いっぱいに生き抜く前進の中で、「答え」は見えてくる。(閃)