「平和ほど、尊きものはない。平和ほど、幸福なものはない」との書き出しが記された『新・人間革命』の原稿
『新・人間革命』は小説の形式をとって描かれていますが、実際の出来事が、正確につづられています。牧口先生への迫害や、戸田先生を守るための池田先生の苦闘――先生はこうした歴史を、将来のために正しく残すべきだと思われたのでしょう。
また、小説には多くの庶民が登場します。『新・人間革命』は、啓発を受けて立ち上がった人々、情熱的で献身的な民衆の闘争の偉大な記録です。私は、この小説に比肩できるのは、トルストイの『戦争と平和』くらいではないかと思っています。
第二に、読者を鼓舞することが挙げられます。
第三に、「大山」の章で先生が示されているように、師弟の精神こそ学会の生命線であることを、『新・人間革命』は浮き彫りにしています。小説に描かれる師弟の精神、師弟の姿は、未来の世代にも大きな啓発を与えるに違いありません。
――『新・人間革命』を読む中で、博士が最も心を動かされた点は何でしょうか。
博士 『新・人間革命』は、何よりも“一人の人間がどれほど偉大な力を持っているのか”を教えてくれています。例え一人であっても、社会に変化をもたらすことができるのだと、教えてくれています。
私たちは誰もが平和に暮らす権利を持っています。しかし社会には、いまだに暴力や破壊、正義への裏切りがあふれています。こうした状況は、民衆の意志によって変革していくべきです。
では、どうやって人々の心を変えていくのか。ここに「一人」の力の持つ重要性があります。一人から変革は始まるのです。
人々に新しいビジョンを与えた釈尊も「一人」でした。日蓮大聖人は釈尊の教えを新しい方法で解釈し、牧口先生は価値創造の団体(創価学会)を創立しました。戸田先生は人間革命の哲学を実践し、池田先生がそれを受け継ぎました。
皆、「一人」から始まりました。ガンジーも、マーチン・ルーサー・キングも、どの偉大な指導者も最初は「一人」だったのです。
――池田先生は、多忙な平和行動の合間を縫うようにして、小説の執筆を続けてこられました。
博士 先生は単に「書くため」だけに筆を執ったのではないと思います。先生は作家であるとともに、平和・文化・教育を推進する多彩な機関の創立者でもあります。執筆や写真撮影、スピーチ、対話など、先生の行動は全て「広宣流布」の活動の一部なのです。
先生は“新たな人間主義”を、ずっと訴えてこられました。新たな人間主義の時代を築くためには、一人一人の変革が必要です。人間革命が必要です。そして信仰と広宣流布の運動こそが、この人間革命を実現する力なのです。世界平和に貢献する力なのです。
池田先生は小説を通し、自身のメッセージを書き残してくださったのだと思います。
このたび、私は先生に関する書籍を出版しました。〈英文書籍『ダイサク・イケダ――希望と幸福のチャンピオン』、ガンジー・メディア・センター刊。先月27日にシンガポール経営大学で出版発表会が開催された〉
この本を書いた目的は、先生の行動の“全体”を見てほしいという点にあります。
90年の人生を通して、偉大な指導者である先生が私たちに残してくれたものは、数えきれません。そこには、誰もが学ぶべき多くの教訓があります。
私は、先生から学んだことを、また、それを経験できた喜びを本につづったのです。
――最後に、完結した『新・人間革命』を、今後、世界の友はどう学び、深めていくべきだと思われますか。
博士 『新・人間革命』は非常に希有な作品だと思います。世界のどの文学界にも、このような作品はないでしょう。
先ほどの話とも関連しますが、『新・人間革命』は創価学会の歴史そのものです。そしてそれは、民衆一人一人の行動によって織り成されたものです。
たとえば、この壁に掛かった絵を見てください。絵を遠くから見ると、細かいところまでは見えません。細部を見るには、近くまで寄らないといけません。
近くで見ると、絵の一本一本の線が、何らかのメッセージを持っていることが分かります。でも、一本の線だけでは絵にはなりません。絵は、個々の線が集まった全体のイメージです。
『新・人間革命』も、師弟の精神によって結びつき、決して諦めずに戦い抜いてきた民衆一人一人の心と行動が結集したものです。だから『新・人間革命』は、素晴らしい絵になっているのです。そして、これからも、その闘争は続いていくのです。
誤解を恐れずに言うならば、私が感じた池田先生の読者に対するメッセージは次のようなものです。
「この『新・人間革命』の物語は、私とあなたが成し得たことです。あなたと共につづってきたものです。そしてこれからも、あなたは戦いを続け、挑み続けていく必要がある。あなたが世界を変えていくのです。変革に挑み続ける人生を送ってください。決してひるまずに! 決して諦めずに!」――と。
『新・人間革命』は、本当にすごい本です。読めば読むほど、もっと語りたくなります。私は、これからも読み続けていきます。