小説「新・人間革命」聖教新聞とっておきの一枚

〈小説「新・人間革命」〉 大山 四十八 2017年2月28日

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 法悟空 内田健一郎 画 (6008)

 山本伸一が聖教新聞社を出て、自宅に向かったのは、午後十時前のことであった。
 空は雲に覆われ、月も星も隠れていた。
 これで人生ドラマの第一幕は終わったと思うと、深い感慨が胸に込み上げてくる。
 すべては、広布と学会の未来を、僧俗和合を、愛するわが同志のことを考えて、自分で決断したことであった。彼は思った。
 “これからも、学会の前途には、幾たびとなく怒濤が押し寄せ、それを乗り越えて進んでいかなくてはならないであろう。私が一身に責任を負って辞任することで、いったんは収まるかもしれないが、問題は、宗門僧らの理不尽な圧力は、過去にもあったし、今後も繰り返されるであろうということだ。それは広宣流布を進めるうえで、学会の最重要の懸案となっていくにちがいない。
 学会の支配を企てる僧の動きや、退転・反逆の徒の暗躍は、広宣流布を破壊する第六天の魔王の所為であり、悪鬼入其身の姿である。信心の眼で、その本質を見破り、尊き仏子には指一本差させぬという炎のような闘魂をたぎらせて戦う勇者がいなければ、学会を守ることなど、とてもできない。広宣流布の道も、全く閉ざされてしまうにちがいない”
 未来を見つめる伸一の、憂慮は深かった。
 玄関で、妻の峯子が微笑みながら待っていた。家に入ると、彼女はお茶をついだ。
 「これで会長は終わったよ」
 伸一の言葉に、にっこりと頷いた。
 「長い間、ご苦労様でした。体を壊さず、健康でよかったです。これからは、より大勢の会員の方に会えますね。世界中の同志の皆さんのところへも行けます。自由が来ましたね。本当のあなたの仕事ができますね」
 心に光が差した思いがした。妻は、会長就任の日を「山本家の葬式」と思い定め、この十九年間、懸命に支え、共に戦ってくれた。いよいよ「一閻浮提広宣流布」への平和旅を開始しようと決意した伸一の心も、よく知っていた。彼は、深い感謝の心をもって、「戦友」という言葉を嚙み締めた。