戸田先生ご指導

つまり、その宿業の原因を変えたとすれば、結果はどうなってきますか。宿業が変わる。したがって、あなたの宿命が大きく変わってゆきます。

スポンサーリンク

戸田は、おだやかに口をひらいた。「あなたの今の心が、どんなに苦しんでいるか解らんわけではないが、夫婦の仲にまではいるわけにはいきません。

ただ一つ、ここであなたに教えておかねばならないことがある」「それはほかでもない。あなたの、そういう夫を持たねばならなぬ宿命が打開されないかぎり、その人と別れても、また同じような亭主を持つことだろう。

おなじものを持つなら、たくさん子供もでき、今までもどうやらやってきたのだから、間に合いそうではないだろうか……」

「今のまま、いかにいじめられても、信心をしとおして、やがてその宿業を打破すれば、その夫は必ず良い夫に変わるのだ。

信心を基準にした場合は、冬から春に変わる境目であり、干潮から満潮に変化してゆく一現象なのです。

もし、夫が変わらぬとするならば、その夫のほうから自然に出ていってしまいますよ。別れる別れないは、その時に考えればよいのです。重ねていうが、別れるなとも言わないし、別れろというのでもありません。あなたが半年なり一年なりを、信心の実証を示すために、真剣に家庭革命の中心となって頑張りきってみることです。

宿命転換の実践を、勇敢にやりとおしてみることです」彼女は、きょとんとして顔をあげた。そして、あきらかに失望の色を浮かべて、俯いた。戸田は、それにはかまわず、さらにつづけた。「こういったからといって、はいそうですか、と納得のいくことでもないかもしれない。

今のあなたは、”そんなことを言ったって、私のこの苦悩はどうしようもない。いったい、どうしたらいいのです。それが聞きたい” と、思っているのでしょう」婦人は、子供のように大きくこっくりした。戸田は笑った。「あなたは正直な人だ。

頓服がほしいんだね。私もそんなうまい薬があれば、すぐさまあげたいよ。風邪なら頓服で間に合うが、夫婦の不和には、そうはいかない。やっかいなこんな病気には、頓服など断じてない。夫婦不和のビールスなんて、そんな菌は発見されようもなかろう。

ただ一つ、正法の三世にわたる因果の法則からみれば、その原因は判然とわかるのです。あなたが信心したら、主人が猛然と反対し始めた。これは一つの結果です。偶然では決してない。その辺の新興宗教や、死んだ宗教か何かであったら、そんなことはないかもしれない。

この信心は、力がある生きた信仰なのです。

正法を受持して、なおそのような目にあうというのは、なにが原因だと思いますか。よく低級な宗教家連中の言う、あなたの心得が悪いとか、反対する主人が悪いとか、そんなことに根本の原因があるのではない。厳然たる因果の理法に依るのです。

そんなこと、私は知らんといってもダメなんだ。仏様がちゃんとおっしゃっているんだもの。その辺の教祖や、宗教家の言葉とは、わけが違う。

決して嘘ではない。真実なのです。だからといって、因果の理法がわかれば、解決するというのでもない。これらの根本的解決のために、日蓮大聖人は御本尊を残されたわけです。その御本尊にたゆまず唱題し、生活革命に努力してゆくことです。若木も一日では伸びない。赤ん坊も一日や二日ぐらいでは大きくならないのと同じく、宿命打開の長い信心が必要になってくるのです」婦人の心の琴線に、ようやく触れるものがあった。「ただ、このことを確信して実行してみるか、疑ってやらないか、問題はそれで右になり、左になるだけだ。反対されればされるだけ、あなたの宿業は浄化されると決めていってごらんなさい。

必ず後になってわかる。つまり、その宿業の原因を変えたとすれば、結果はどうなってきますか。宿業が変わる。したがって、あなたの宿命が大きく変わってゆきます。

法華経にも『衆罪は霜露の如し、慧日能く消除せん』とある。そこまで信心を貫き通さなければ、意味がない。いやだろうが、苦しかろうが、やり抜けば、お灸の後のようにさわやかになるんだよ。永遠の生命からみれば、その苦しい半年や一年は瞬間のようなものだよ。一家の根本的な改革の道があるのだから、あとは勇気を持ってやってごらん。

この戸田が命にかけて保証します」彼女は、返事の代わりに、しくしくと泣き出した。悲しかったのでもない。絶望したのでもない。赤の他人の哀れな女を、こうまでも真剣になって考え、指導してくれる真心に打たれたのである。

これまで、いったい誰が、このように言ってくれたであろうか。ほんとうに初めてのことだ。彼女は感動した。そして甘えた。いま、初めて戸田の言葉を信じようとした。それで安堵の涙が、あふれてきたのである。彼女は、かぼそい声でやっと言った。「先生すみません」「すまんことなどあるものか。

ただ、いい加減な信心では、証拠がでないというのだ。少しの間、しっかり頑張りきることだ」戸田は、彼女が心底から発奮し、忍耐強く精進してゆこうと決意しているのを感じとっていた。