〈虹を懸ける〉

〈虹を懸ける〉池田先生とスコットランド②=完 2018年9月30日 「人間の王者」の人生を

スポンサーリンク

 多くのスコットランドのSGIメンバーにとって忘れられない池田先生との原点――それは、先生のスコットランド訪問2日目(1994年6月14日)、グラスゴーのボタニック・ガーデン(植物園)で行われた記念撮影である。
 前日13日の夜に撮影が決まると、瞬く間にメンバーに連絡が伝わり、当日は60人余が喜々として集った。
 14日午後5時、先生がボタニック・ガーデンに到着すると、友の間から大歓声が湧き上がった。

 当時、スコットランドの中心者だったアケミ・ポーチャスさん(方面総合婦人部長)は振り返る。「その時、不思議にも、雲の間から太陽が顔を出し、スポットライトに照らされるように、私たちのいる場所が明るく温かな光に包まれました」
 先生は、空を指さしながら言った。「勝利の空です。皆さんのようです。『スコットランドを見よ』です」
 先生は、両手を大きく広げて“勝利のVサイン”をつくり、こう呼び掛けた。
 「人間の王者として生きましょう!」

師と同じように

 人間の王者――スコットランドの国民詩人ロバート・バーンズの作品に登場する言葉でもある。
 バーンズはつづっている。「人間は、人間である。位や、肩書や、富など、見せかけだけの飾りではないか! 誠実な人間こそが、人間の王者なのだ!」(中村為治訳)
 記念撮影はわずか20分間。だが、スコットランドの友は、この時に結んだ先生との心の絆を胸に、誠実な振る舞いで広布と人生の苦難を乗り越えてきた。
 シーラ・パシフィコさん(婦人部総合本部長)もその一人。
 パシフィコさんが仏法を知ったのは、家族や友人との人間関係で悩んでいた10代の頃だった。
 友人から誘われ、SGIの会合に参加して以来、唱題を実践。信仰の力を感じたパシフィコさんは、自ら進んで入会した。
 その後、ボタニック・ガーデンでの記念撮影のほか、南フランスの欧州研修道場での研修会(83年)など、先生との出会いを支えに、一つ一つの悩みに打ち勝ってきた。
 最大の苦難に襲われたのは2002年。最愛の夫の死など、身近な人の不幸が重なった。
 長男はまだ15歳。生活を支えるため、パシフィコさんは必死に働いた。一方で、御本尊の前に座ると、涙が止まらないこともあった。
 ある日、パシフィコさんは、小説『人間革命』を読み、池田先生の青年時代の苦闘を知った。
 さらに事業が苦境に陥った恩師・戸田先生を支えた若き日以来、どんなに大変な状況の中でも、池田先生は会員一人一人に渾身の激励をしていたのだと気付いた。
 「自分の悩みが小さく思えました。私も困難に負けず、自身の人生を人のために使おうと誓いました」
 そう心が定まると、心ゆくまで題目があげられるようになり、物事を前向きに捉えられるようになった。
 現在は転職し、グラスゴー市内の病院で、子どもたちの心のケアに携わるパシフィコさん。今日も同苦の心で、子どもたちに寄り添い続けている。

未来を担い立つ

 先生は記念撮影の場で、一人一人の友に声を掛け、激励した。
 最前列にいたのは、未来部員ら。先生は腰をかがめ、目線を合わせて「21世紀を、よろしくお願いします!」と握手を交わした。
 この時の友の多くが現在、広布のリーダーとして活躍している。
 マイケル・トレヴェットさん(男子地区リーダー)は当時、生後1歳10カ月。信心強盛な両親に抱かれて参加した。
 両親の姿を見ていたものの、トレヴェットさん自身は、信心にそれほど興味を持てずにいた。
 変化が訪れたのは、進路に迷った16歳の頃。自発的に題目をあげ始め、18歳の時に、自分の御本尊を受持した。
 トレヴェットさんは当時を振り返る。
 「周囲と比べては焦り、苛立つことが多い性格でした。しかし、唱題を実践するうちに、何事にも振り回されない自分に成長したいと思うようになりました」
 その後、大学に進学。勉強と学会活動に全力で取り組み、イギリスを代表する企業への就職を勝ち取った。
 現在、職場やSGIの組織で、リーダーシップを発揮するトレヴェットさん。そんな姿に触れ、これまでに2人の友人が入会した。「信心が教えているのは、どんな環境にあっても、そこから逃げずに、価値を生み出す大切さだと思います。先生の期待を胸に、21世紀の広布を担っていきます!」

勇気の信心で

 現在、スコットランド方面の婦人部長を務めるダイアン・リングさん。ボタニック・ガーデンでの記念撮影の場に居合わせた。
 高校時代から医療の道を志していたリングさん。卒業後、メンタルヘルスの患者に関わる看護師になった。
 メンタルヘルスが不調になる要因は、家庭や職場など患者を取り巻く環境によってさまざまだ。また、患者の病状もそれぞれ異なり、常に変化していく。
 リングさんは、そんな仕事に強いストレスを感じていたが、周囲に自分の気持ちを伝える勇気が出ない。子育ての苦労も重なり、リングさん自身も体調を崩しがちになった。
 1990年の入会から4年。勤行を実践してはいたものの、信心で状況が変わることが心から信じられず、悶々としていた。
 そんな中での池田先生との出会い。
 「先生は、私たちが御本尊を信じ、幸福な人生を送るよう励ましてくださいました。私は、もう一度、真剣に題目をあげ、目の前の悩みに打ち勝とうと決意できました」
 祈る中で、生命力がふつふつと湧いてくるのが分かった。自身の悩みを周囲に伝えることもでき、状況は劇的に変わった。リングさんは、現実を変革する信仰の力を実感することができた。
 その後、リングさんは転職。自身の経験を生かし、職場における健康を専門とする看護師として定年まで働いた。「行き詰まりを打破するのは、勇気の信心です。この確信を、スコットランド中の人々に伝えていきたい」
 ◇ 
 記念撮影の翌15日、先生は15世紀以来の伝統を誇るグラスゴー大学から名誉博士号を受章した。この6月15日は、後にSGIの「スコットランドの日」に制定されている。
 先生がスコットランドを出発したのは、名誉博士号の授与式の翌16日だった。
 友は見送りに駆け付け、スコットランドの民謡を歌った。
 先生は「ありがとう。いい歌だね」と。到着の時と同じように、再び同志と握手を交わし、語った。
 「本当にありがとう。皆さんのことは一生、忘れません」
 「私は皆さんを、たたえます。これからも仲良く、第一にも第二にも仲良く生き抜いてください」
 「お幸せに。お体を大切に。いつも皆さんのことを祈ります」
 先生が出発した後、空に大きな虹が懸かった。
 それは、「人間の王者」として歩み抜く友と、スコットランドの未来を祝福するかのようだった。
 (①は9月23日付に掲載)