「鞭を惜しむと子どもがダメになる」と体罰を肯定する考えが主流だった時代、ある母が幼い息子をこう言って叱った。「外で鞭を探してきなさい」▼外に鞭など落ちているはずもない。息子は代わりに、石を持って帰った。“僕を痛い目に遭わせたいだけなら、石でもいいでしょう?”と、訴えるように涙を流した。われに返った母は、息子を抱き締め、一緒に泣いた。その後、石は台所の棚の上に置かれ続けた。「暴力は絶対にだめ!」と、自らを戒めるために▼スウェーデンの児童文学作品『長くつ下のピッピ』の作者アストリッド・リンドグレーンが1978年、ドイツ書店協会平和賞授賞式のスピーチで紹介した、知人女性のエピソードである。東京富士美術館で開催中の「長くつ下のピッピの世界展」の一角に、手のひら大の石が展示されている。子どもたちが作品の絵画を楽しむ一方、その石をじっと見つめる大人たちの姿が印象的だった▼“力で物事を解決しようとする生き方”を、人は自分の親から学ぶという説がある。「ゆえに戦争の根っこも、家庭にある」と池田先生は訴える▼学会は、永遠の五指針の第一に「一家和楽の信心」を掲げる。人間の心に「平和の砦」を築く――その第一歩は、家庭から始まる。(之)