幼い息子が「目にほこりが入った」とぐずるので、母親は洗眼薬を用意した。薬液を入れた小さな専用カップを目に押し当て、上を向かせたまではいいが、おじける息子は目を固く閉じたまま。「さあ、パチパチして」と促す母に、息子はまばたきではなく、手をたたき始めた▼その息子も、今ではとうに母の背丈を抜き、立派に成人した。頼もしい限りと目を細める母だが、あの日の息子のほほ笑ましいしぐさは、今、思い出しても心が癒やされるとか。子育てに悩んだ時は、あの日の情景が、わが子の純粋な心を信じ抜く力をくれたともいう▼遠い昔のことなのに忘れ得ぬ「宝の思い出」が、その後の人生を支え、開いてくれる――それを痛感する場面に出合った。ある会合の終了後、会場の隅で壮年部員が一人の青年の手を握り締めていた。壮年が未来部を担当していた時の少年部員で、十数年ぶりの再会だった▼「覚えてる?」と聞く壮年に、青年は「覚えてますとも!」と快活に。続けて「会うたびに『君の使命は大きいよ』と励ましてくれたことも覚えてます」の言葉に、壮年の目から涙があふれた▼苦楽を共にする同志と広布に生きることもまた「今生人界の思出」となる。その思い出は、時を重ねるほどに輝きを増していく。(代)