忘れ得ぬ瞬間

〈忘れ得ぬ瞬間 創立者の語らい〉第5回 2018年8月14日 創価大学 1988年8月 学光祭 向学の道に栄光は輝く

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創価大学 1988年8月 学光祭
向学の道に栄光は輝く
第13回学光祭で、通教生の熱演を温かく見守り、拍手を送る創立者・池田先生ご夫妻(1988年8月、創価大学で)

 創価大学通信教育部の夏期スクーリングが、12日に開講した。今年も全国・海外各地から集った老若男女が、創大キャンパスで“学びの夏”を過ごす。期間中には、伝統光る通教生の祭典「学光祭」が開催される。1988年8月16日の第13回学光祭には、創立者・池田先生が出席。80代になっても研さんの歩みを止めなかった歴史家トインビー博士との語らいや、働きながら学んだ自身の体験を通し、苦労と工夫を重ねて勉学に挑む友を心からたたえた。

「生涯教育」という高邁なる理想に汗を流すひたむきな姿は、本当に美しい。「生涯教育」についても、かつてトインビー博士と種々、語りあった思い出がある。その時に博士は「生涯にわたって時間を活用しながら、教育を続けることこそ、民衆の知的・倫理的レベルを向上させる、もっとも確実な方法である」と、断言しておられた。

博士は「成人後の教育においては『学問』と『経験』、つまり『理論』と『実践』とがたがいに補足しあい、刺激しあっていく。ゆえに、青少年期の教育よりも、いっそう実り多いものとなる」とも力説しておられた。たしかにそのとおりであると、私も実感する。

多くの人が夏季休暇で、遊び、休んでいる時期に、このように、皆さま方が、人間教育の最高学府に集い、学んでおられることは、たいへんにすばらしく、尊いことであります。私は、最大の「誇り」と「自信」をもって、これからの人生の歩みをお願いしたい。
かりに試験がうまくいかなかったとしても、それはそれと考えればよいと思う。歴史上の人物をみても、一度や二度の試験の失敗など、数多くある。失敗しなかったから、人間的に「えらい」とか、失敗したから「ダメだ」と決まるものではない。「学ぶ」ということは、そうした表面的な姿では測れない「深さ」と「広がり」をもっている。
「働きながら学ぶ」という皆さまの向学の道には、人知れぬ苦労も大きいにちがいない。しかし苦労が大きければ大きいほど、みずからが体得する成果も大きいと申し上げておきたい。

人格と知性の人に

 次に先生は、フランスの文豪エミール・ゾラの人生に言及する。大学の入学試験に2度失敗し、出版社で働きながら文学への道を歩み始めたゾラ。発送や返本整理等の地味な仕事の中で、時代のニーズに合った本のセンスを磨いた彼は、文筆の世界で地歩を築いていく。晩年、軍部権力が起こした冤罪事件を糾弾し、正義の言論戦を展開。迫害の中、信念を貫いたゾラの生涯を通して、先生は呼び掛けた。

いかなる立場におかれても、そこで最大限に力を発揮し、新たな世界を切り開いていく。一切を、みずからの決めた道を進みゆくための発条として、労苦のなかに未来の成長を求める。これこそ青年らしい生き方でありましょう。

正義のため、真実のために打たれれば打たれるほど、人は偉大になる。荘厳になってくる。ここに正しき人間の道があり、勇気ある人生の真髄があります。抵抗や圧迫を恐れて、信念を曲げたり、妥協したり、また姑息な策を弄したり、そういう臆病な生き方のなかには、真実の人格の輝きはない。

強靱な知性があるからこそ、正を正、邪を邪と見ぬき、雑音に紛動されない。また自己のちっぽけな、濁った私情に負けることなく、正義の信念に殉じて恐れない。真理の導く方向へ、堂々と、まっすぐに進んでいくことができる。学問と教養によって、耕され、練り鍛えられた確固たる人格と知性。諸君は、そうした、ゆるぎなき「人格の人」「知性の人」になっていただきたい。

そして「正義」と「真実」の“学の光”を、社会に燦然と輝かせ、民衆の新しき歴史をつくっていただきたい。これこそ、私が恩師から託された悲願であります。