小説「新・人間革命」

〈小説「新・人間革命」〉 誓願 三十一 2018年5月1日

スポンサーリンク

 法悟空 内田健一郎 画 (6361)

 ゴルバチョフ大統領は、山本伸一との語らいのなかで、自分の率直な真情を口にした。
「私は、どのようなテーマでも、取り上げたくないものはありません。すべて、言いたいことを言ってください。私もそうします。
今まで日本の方とは、あまりにも紋切り型な対話が多かった。ともかく、お互いに協調の歩みを始めれば、問題は、そのなかで解決していくものです。偉大な国民が二つ集まって、いつまでも『前提条件』とか、『最後通告』などと言っているようではダメです」
伸一は、大統領の対話主義の信念を見た思いがした。
対話は、権威や立場といった衣を脱ぎ捨てて、率直に、自由に、あらゆる問題に踏み込んで、双方が主張をぶつけ合ってこそ、実りあるものとなる。また、初めに結論ありきという姿勢ではなく、柔軟に、粘り強く、何度でも語り合っていくなかから、新しい道が開かれていくのである。
語らいは、約一時間十分に及んだ。
伸一と大統領との会見は、即刻、世界に打電された。ソ連国内では、モスクワ放送や共産党機関紙「プラウダ」、政府機関紙「イズベスチヤ」などで大々的に報じられた。
大統領が訪日を言明したことは、視界が開けなかった日ソ関係に、新しい交流の光が差したことを意味していた。
日本では、その晩から、二人の会見と「ゴルバチョフ大統領訪日」のニュースが、NHKをはじめ、テレビ、ラジオで流れた。また、全国紙などがこぞって、一面で報じた。
大統領は、会談翌年の一九九一年(平成三年)四月、約束通り、日本を訪問した。
伸一は、東京・迎賓館に大統領を表敬訪問した。再会を喜び、対話が弾んだ。伸一は、大統領が安穏の日々をあえて振り捨てて、ソ連のため、人類のために、ペレストロイカという現実の“戦闘”に飛び込んだ勇気を心から賞讃した。二人は、日ソの「永遠の友好」を、共に強く願い、語り合った。未来を照らす、“友情の太陽”は赫々と昇ったのだ。