小説「新・人間革命」

小説「新・人間革命」〉 大山 六十 2017年3月14日

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 法悟空 内田健一郎 画 (6020)

 山本伸一は、しみじみと思うのであった。
 “戸田先生は、私という一人の真正の弟子を残した。全生命を注ぎ尽くして、仏法を、信心を教え、万般の学問を授け、将軍学を、人間学を伝授し、訓練に訓練を重ねてくださった。また、先生の事業が破綻し、烈風に立ち向かった、あの辛酸の日々を過ごしたことも、師子として私を鍛え上げるための、諸天の計らいであったのかもしれない。
 私も会長就任以来十九年、全精魂を傾けて後継の人材を、一陣、二陣、三陣、四陣……と育ててきた。しかし、その本格的な育成は、いよいよこれからだ。
 後を継ぐ第一陣ともいうべき首脳幹部たちは、嵐のなかに船出し、学会の全責任を担い、懸命に戦うなかで、真正の師子となってもらいたい。退路なき必死の闘争が覚悟を決めさせ、師子の魂を磨き上げるからだ。
 それに、今ならば、私も彼らを見守り、個人的に励まし、一人の同志としてアドバイスしていくこともできる。執行部を、後継の同志を、正行のように、討ち死になど、断じてさせるわけにはいかぬ!”
 そう考えると、すべては御仏意であると、伸一は強く確信することができた。
 “あとは、二十一世紀を託す若き師子たちの育成が、大事な仕事となる。一人ひとりが、いかなる時代の激動にも対応できる、知勇兼備の後継の逸材に育ってほしい”
 彼は、青年たちに、その思いを伝えるために、“大楠公”の歌のピアノ演奏をテープに収め、門下の代表に贈ろうと思った。
 早速、職員にテープレコーダーを用意してもらった。そして、初めに「わが愛し、信ずる君のために、また、二十一世紀への大活躍を、私は祈りながら、この一曲を贈ります」との言葉を録音し、ピアノに向かった。
 ひたすら弟子の成長を願い、一心に、時に力強く、魂を込めた演奏が続いた。
 “立てよ! わが弟子よ、わが同志よ。勇み進め! 君たちこそが伸一なれば!”と心で叫びながら――。