小説「新・人間革命」

〈小説「新・人間革命」〉 大山 十六 2017年1月20日

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 法悟空 内田健一郎 画 (5976)

 山本伸一は、首脳幹部の一人ひとりに視線を注いだ。皆、眉間に皺を寄せ、口を開こうとはしなかった。長い沈黙が続いた。
 伸一が、一人の幹部に意見を求めると、つぶやくように語った。
 「時の流れは逆らえません……」
 なんと臆した心か――胸に痛みが走った。
 伸一は、自分が頭を下げて混乱が収まるならば、それでよいと思っていた。辞任は避けられないかもしれないとも考えていた。また、皆が対応に苦慮し続けてきたことも、よくわかっていた。しかし、それにしても不甲斐ないのは“時流”という認識である。
 “ただ状況に押し流されて、よしとするなら、いったい学会精神はどこにあるのか! 大事なのは、広宣流布のために学会を死守しようという奥底の強い一念ではないか!”
 伸一の声が静寂を破った。
 「わかった。私は、法華講の総講頭も、学会の会長も辞めよう。一切の責任を負う。それでいいんだな! すべては収まるんだな!
 しかし、会長の辞任は、宗門ではなく、学会が決めることだ。私が会長を辞めるのは、前々から考えてきたことであり、学会の未来を開くためだ」
 伸一には、“宗門が創価学会の会長を圧力で辞めさせるなどという前例を、絶対につくってはならない。また、そんなことになれば、宗門の歴史に、永遠に汚点を残すことになるだろう”との思いもあったのである。
 戦後、宗門が危殆に瀕した時、外護の赤誠をもって、それを救ったのは学会である。そして何よりも学会は、伸一を先頭に死身弘法の戦いをもって、実際に大聖人の御遺命通りに広宣流布を推進し、世界に妙法を流布してきた唯一無二の仏意仏勅の団体だからだ。
 伸一の話に感極まった首脳が言った。
 「先生! 誠に申し訳ありません……」
 広布の道は、第六天の魔王との壮絶な闘争である。信心をもって、その魔を見破り、戦い、勝ってきたからこそ、学会は広宣流布の大潮流をつくることができたのである。