名字の言

〈名字の言〉 2018年12月3日  作家の吉川英治氏は、新聞や雑誌などで、同時に小説の連載を抱えていた時期があった。

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作家の吉川英治氏は、新聞や雑誌などで、同時に小説の連載を抱えていた時期があった。雑誌の小説を書いて、新聞小説の執筆に移るのは、頭の切り替えが難しかったという▼「ものを書くという仕事は生活を深まさせてはくれるが、同時に、人生を短くするようにも思われてならない」と吉川氏は言う。執筆に取り掛かると、作品中の人物が夢にまで登場し、睡眠を妨げられることもあった。小説を書くことは、文豪にとって命を削る“戦い”だった▼氏は小説を書く時、「希望的である」ということを原則とした。大衆文学を読む人のほとんどは、日々の生活に苦闘している。そうした人々の心に、希望の灯をともすことを信念とした(『吉川英治全集52』講談社)。庶民に希望を届ける――この“吉川文学”の熱は、今も大衆の心を温め続けている▼池田先生の小説『新・人間革命』第30巻〈下〉が発刊された。「“限りある命の時間との壮絶な闘争”と、覚悟しての執筆」と「あとがき」にある。師が魂魄をとどめた一文一文で、どれほど多くの友が、人生を勝ち開く勇気を奮い立たせてきたことか▼民衆凱歌の歴史をつづる弟子の挑戦は、これからも続く。同書が発刊された今、その大道を真っすぐに歩み抜くことを、改めて誓いたい。(澪)