法悟空 内田健一郎 画 (6365)
マンデラ副議長に贈る詩を、通訳が朗読し終えると、山本伸一は立ち上がって、“人権の闘士”と固い握手を交わした。
感動の面持ちで、伸一の手を握る副議長に、伸一は言った。
「『同志』が、日本にもいることを忘れないでください。世界にもいます。後世に、もっと出てくるでしょう」
そして、最も感銘を覚えた言葉として、副議長が獄舎から解放された直後(一九九〇年二月)の演説で、結びの部分で述べた言葉を読み上げた。それは、二十六年前の裁判で、マンデラ自身が語った言葉の引用であった。
「『私は、白人支配と、ずっと戦ってきた。黒人支配ともずっと戦ってきた。私は、すべての人びとが、ともに仲良く、平等な機会をもって、ともに暮らすことのできる民主的で自由な社会という理想を心にいだいてきた。それは、私がそのために生き、実現させたいと願っている理想である。しかし、もし必要ならば、その理想のために、命を捧げる覚悟である』(注)
この言葉には、貴殿の魂が凝縮しています。私も『平和の闘士』『人権の闘士』『正義の闘士』の道を歩いているつもりです。ゆえに、この言葉が、深く私の胸に共鳴してやまないのです」
副議長は語った。
「私たちが、今日、ここで得た最大の“収穫”は、名誉会長の英知の言葉です。
勲章は、いつか壊れてしまうかもしれない。賞状も、いつかは焼けてしまうかもしれない。しかし、英知の言葉は不変です。その意味で私たちは、勲章や賞状以上の贈り物をいただきました。
名誉会長のお話をうかがい、私たちは、この場所を訪れた時よりも、より良き人間になって、ここを去っていくことができます。名誉会長のことを、私は決して忘れません」
「私の方こそ、今、言われた以上に、深く感謝しております」
真実の対話は、互いに啓発を与え合う。
小説『新・人間革命』の引用文献
注 『NELSON MANDELA Conversations with Myself』Farrar, Straus and Giroux