〈私がつくる平和の文化〉

〈私がつくる平和の文化〉総集編 一人一人が変革の主体者 2019年12月19日

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国連で「平和の文化に関する宣言と行動計画」が採択されて20周年となった本年、連載「私がつくる平和の文化」を1月からスタート。各界の識者のインタビューを掲載し、一人一人が「平和の文化」を築くために何ができるかを考えてきた。1年間の内容をテーマごとにまとめた。

元国連事務次長 アンワルル・K・チョウドリさん
「平和の文化」とは?
「平和の文化」とは、私たち一人一人が日常の中で「平和と非暴力」を自分の生き方にしていくことです。
例えば人と接する時、攻撃的になったり、暴力を使ったりしない。軽蔑したり、無視したり、偏見を持ったりしない。そうした生き方を身に付けていくことです。平和といっても、どこか遠くにあるものではないからです。何か問題が起きても、どこまでも対話を通して互いを理解し、協力し合う努力をして、解決することが重要なのです。
「平和の文化」を根付かせるには、一人一人の、そして、全ての人の自己変革への努力が必要です。一人が「暴力を使わずに協力し合うことは可能だ!」との信念を持ち、実際に非暴力で争いを解決できれば、世界に対する偉大な貢献になり、波動は大きく広がっていくのです。(1月10日付)

歌手 アグネス・チャンさん
多様性の尊重
私たちが平和のためにできることは、皆が同じになることでも、それを望むことでもありません。違いを認め合う。尊敬・尊重し合う。互いの文化や考え方を学んで一緒に楽しむ。共に生き、共に栄えようという気持ちで暮らすことです。
違いを楽しみ、受け入れることを子どもたちに教えることが、平和を前進させるカギです。
幸福をつくるのは自分です。そのために必要なのは希望です。希望を決して失わないこと。どんな暗闇でも必ず光は差してくるし、冬が来れば春は必ず訪れます。
希望がなければ自分でつくればいいし、自分が希望になればいい。人を愛する力、人を幸せにする力は誰にでもある。それを信じ、違いを恵みとして楽しみ、互いの存在に感謝していく中に、平和はあると思うのです。(2月7日付)

ジャーナリスト 治部れんげさん
女性と男性の平等
「女性と男性の平等」を目指すとは、人権が尊重される社会をつくることにほかなりません。
女性が暴力を受けない社会は、男性にとっても「平和」な社会だと思います。
女性も男性も、「性別による役割分担」に縛られていると、自由がなく、生きづらい思いをするでしょう。
今の日本のように、大事な意思決定の場に女性が少なすぎたり、生活の場に男性が少なすぎる状況を解消し、多様な意見を反映した社会を築かなければ、日本は世界から取り残されてしまう。
職場に限らず、地域でも家庭の中でも、“男性だから”“女性だから”ではなく、その人らしく活躍できるよう、意識を変え、仕組みを変えていく。それが、生き方の選択肢を広げ、豊かさにつながっていくことになるのです。(3月5日付)

成蹊大学名誉教授 廣野良吉さん
持続可能な開発
平和が来なければ「開発」などできません。だけど、平和になっても「持続可能な開発」ができるとは限らない。それぞれの国や地域で、優先すべき課題は違います。それに、食べる物、着る物、暮らし方、何が好きか、みんな違います。それを理解しないで、上から「これをやれ」と無理やり押し付けても、誰もやりません。だから僕は国際会議で、「平和の文化」がなければ「持続可能な開発」はあり得ない、と強調しています。「平和の文化」とは、各地域に住む人々の多様性・自主性を尊重し、一人一人の日常生活が、常に平和の方向へ動くようになることだからです。
地球は「自分たちのもの」であり、未来の世代から借りているものです。みんながそう思えば、もっと大切にできるのではないでしょうか。(4月8日付)

国連子どもの権利委員会委員 大谷美紀子さん
子どもの権利
「子どもの権利条約」が国連で採択されて、今年で30周年を迎えます。
かつては「守られるべき存在」としてのみ見られていた子どもを、大人と同様に「人権があり、尊重されるべき一人の人間」と捉えた条約は「子どもの見方」を一変させた画期的なものです。
自分が「かけがえのない大切な存在」だと自覚し、周りの大人から「大切な一人の人間」として接してもらうことは、他人も自分と同じように大切な存在であることを知り、他人を大切にする姿勢にも通じていくと思います。
児童虐待、いじめなど、子どもに関する全ての問題への取り組みの中心に「子どもの権利条約」を位置付けることが大事です。
子どもの笑顔が広がる社会こそ、平和な世界といえるのです。(5月1日付)

戸田記念国際平和研究所所長 ケビン・クレメンツさん
平和構築の主体者
私の住むニュージーランドでは本年3月に起きたモスク襲撃事件を経て、移民に対する差別意識や偏見を改めて問い直し、いかなる差別も許さない社会を築く挑戦を始めています。
SNS上に溢れる過激で暴力的な情報に惑わされないために、価値観や道徳観を確立する必要性も再認識しています。
こうした時代に平和を築くためには、どこまでも人間を信じ抜くことが大切です。相手に恐怖や不信を抱けば、相手もそれを感じます。反対に、相手に愛情や尊敬の念を抱けば、相手もそれを感じるものです。
「平和の文化」とは、恐れや憎しみを愛に、非寛容を慈悲に、悲観主義を希望に変えていくことです。それが、個人の人間関係も、さらに社会や政治における関係をも変えていくことになるのです。(6月13日付)

米エマソン協会元会長 サーラ・ワイダーさん
対話でひらく
「対話」とは、“私たちは皆、違う”という現実に立ち、そこに無限の可能性と美しさを見いだそうとする積極的な営みです。対話には、何にもまして、人と人を深く結びつける力があります。
対話は、どの瞬間においても、相手の人生の「物語」を聞こうと努めることから始まります。
私たち一人一人が抱く「物語」には、他者との共通性があります。だから、対話を通して互いの「物語」を分かち合い、人間として理解し合うことで、日々の生活に影を落とす「拒絶されるという恐怖」から解放されるのです。
暴力が社会の奥深くにまで蔓延する今、私は「物語」を分かち合おうとする人々の、静かで力強く、たゆみない努力に心を寄せたい。こうした人たちが日々、「平和の文化」を築いているからです。(7月5日付)

昭和女子大学理事長・総長 坂東眞理子さん
「平和の文化」を育む教育
私は、子育て中の親御さんによく、上手に助けを求める「求援力」が必要だよと語っています。親が助けを求める姿を見せていれば、子どもも「苦しかったら我慢しなくていいんだ」と安心するはずです。
「あの人、孤立しているんじゃないかな」と気付く感度。他人の痛みに「共感」できる能力。今の社会は、この「共感力」が一層、必要になっていると思います。
「頼まれてもいないのに」「別に私がしなくても……」ではなく、ささやかでもいい、何かプラスになること、誰かの役に立つことができないか。そう思って周囲を見渡せば、さまざまな困難に向き合っている方たちが大勢います。
勇気を出して直接触れ合えば、必ず手応えがあり、「他人ごと」が「自分ごと」になるはずです。(8月9日付)

ICAN事務局長 ベアトリス・フィンさん
連帯の力
市民社会が声を上げ、連帯する。それが変革の力になります。ICANの活動も、103カ国554団体(8月時点)に所属する、核兵器廃絶を目指す人々の「連帯」で成り立っています。
従来の核兵器廃絶運動は、政府に提言するものなどが多かった。それでは「民衆」に力を与える運動にはなりません。ICANでは「あなたこそ主役です」と語り、“市民社会の力こそ最重要”と位置付けました。
個人主義の強い社会で育った青年には、「連帯すること」が、どれほど大きな力になるのかを学ぶ必要があると感じます。
連帯は、身近な問題や世界の課題に関心を持つことから始まります。家庭でも地域でも、人のために活動する、他人と力を合わせる。その経験を通し、「連帯の心」を培うことができるのです。(9月2日付)

政治学者 姜尚中さん
差別のない世界を
“差別のない世界”をつくるには、人権というものの根幹に「生命論」が必要です。生命に序列はない。どんな生命に対しても「この人は生きるに値しない」などと判断してはならない。生命に対する「畏敬の念」がベースになければ、人権といっても上っ面な言葉になってしまう。まずは私たちが「生命は一つ一つ違う」「どんな生命にも存在する価値がある」という合意をつくること。それがないと、いくら「差別をやめましょう」といっても社会は変わりません。
差別を乗り越えるには、相対して語られる「言葉」によって、人の心を打つような対話が必要です。差別をすることは、結局は自分自身をおとしめることになる――一人一人がそこに気付くような変化をつくりだすことが「平和の文化」ではないでしょうか。(10月17日付)

難民を助ける会理事長 長有紀枝さん
生命の尊重
他者とつながる「心のスイッチ」を切らないでほしい。スイッチが入っていれば、その時々にできることはあるし、いつか必ず、何かができるはずです。
「平和の定義って何?」と聞かれたら、私は「明日の予定を立てられること」と答えます。地雷原の周辺に住む子たちに、大人になった自分の絵を描いてごらんと言ったら、足のない絵を描くんです。彼らにとって大人になるとは、足がなくなることなのです。そういう苦難に思いをはせ、生き方を変えることも「平和の文化」だと思います。
将来の計画を立て、未来を創造することは実はすごい“特権”です。でもその貴重さにはなかなか気付けません。誰もがこの“特権”を持てるようにするためにも、「心のスイッチ」を切らずにいただきたいと思うのです。(11月5日付)

平和教育研究者 ベティー・リアドンさん
「暴力の文化」を変革
暴力とは人間の関係性を壊す行為や態度です。多様な人々が人類という“家族”を構成していることを想像できないため、暴力を使うのです。暴力は、それを使った人の生命も傷つけます。人間関係が希薄な今、人間対人間のリアルな関係を結び直すことが大切です。
かつて池田会長が提唱した「世界市民」の資質の一つに、差異から学ぶ「勇気」とあります。他者への恐怖を乗り越え、勇気をもって相手を深く知る。すると、異なる価値観や学ぶべきものがあることに気付きます。
私は、全ての人が、子どもや青年を大切に「育てる力」を身に付ける必要があると考えます。若い人に自分がかけがえのない尊い存在であることを教え、その可能性を伸ばそうと関わり続ける。それが「平和の文化」の構築につながるのです。(12月12日付)